スペイン・ロマネスク美術とは

 

今から1000年もの昔、中世ヨーロッパに“白いマントで覆われた”と表現されるように、石の聖堂が次々と建造された時代がありました。

現フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、英国、北欧など旧ローマ帝国に相応する広い地域の教会建築が、11世紀〜12世紀の約200年にわたり、一つの美術様式で染まりました。その様式を「ロマネスク」といいます。


ロマネスク美術は、教会建築として生まれたキリスト教美術であり、歴史的な背景や聖書の知識なくして理解することはできません。

聖アウグスティヌスの「美は物質的な塊の中に求めてはいけない」という考え方はロマネスク時代の美意識を端的に物語っています。

世俗的な美しさ、自然主義、写実表現を否定し、外観に宿らない精神的な美を求める思想が、ロマネスクの抽象的で形而上学的な世界を生み出したのです。


さらにスペインのロマネスクは800年続いたイスラム統治の結果、イスラム文化の影響を色濃く受けました。

イスラム文化の装飾手法や空白への恐怖、幾何学的造形などが加わり、他の地域には見られないエキゾチックな光彩を放っています。


スペイン・ロマネスク美術に対峙するとき、我々は息が詰まるような魅力と感動を覚えます。そこには、通俗的な美を超えた、人間存在の奥にある心象の世界が繰り広げられているのです。

 

シロス サント・ドミンゴ大修道院
シロス サント・ドミンゴ大修道院