AREJ mail magazine No.7 2014/3/31

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【1】 『スペイン・ロマネスク美術 入門』第五回のご案内
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 3/18に行われた『スペイン・ロマネスク美術 入門』〈建築〉では、ロマネスク
 建築の基本構造を学びつつ、ロマネスク美術の本質に触れる深い講義を聞くことが
 できました。

 次回のテーマ〈彫刻〉は勝峰理事長のお得意とするジャンルです。
 たくさんの事例紹介とともに興味深いお話が聞けることと思います。
 是非ご参加ください。

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 『スペイン・ロマネスク美術 入門』―Iniciación al Arte Románico Español
 
 第五回 彫刻 escultura  
 日時: 4月23日(水)18:30〜20:30

 講 師:勝峰 昭
 会 場:在東京スペイン大使館オーディトリアム(東京都港区六本木1-3-29)
 参加費:無料(資料代別途:500円)
 定 員:40名(先着順)
 後 援:スペイン大使館

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 以下のページよりお申込みください。
 
 締切は《 4月16日午前中まで 》です。
 まだお申し込みがお済みでない方はお早めにどうぞ。

 フォーム送信後、自動返信メールが届きます。
 もし自動返信メールが届かない場合は、ご自身のメーラーの迷惑メールフォルダの
 中を探してみてください。
 それでも見つからない場合は、お手数ですが romanico.espanol@gmail.com 
 あるいはHPのお問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。

 *講座当日、受付などお手伝いいただける方を募集しています。
 事務局 romanico.espanol@gmail.com までご連絡ください。

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【2】 理事長 勝峰 昭のコラム: 第六回 「直線の効用」
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 私事で恐縮だが、大阪外国語大学の前期二年を京都市の桂に下宿し、大阪の高槻市の
 学舎に阪急電車で通っていたのは、京の都、千本出町柳のサント・トマス学院に
 通うためである。スペイン人神父たちにスペイン語を教えていだだけることになって、
 夜間個人授業を受けた。私が師事したのはPadre Carlos Martinezという金髪の
 若い神父で、綺麗な標準語(カスティーリャ語)を忍耐強く教えてくださった。

 下宿から1kmほど離れた桂川の畔に「桂離宮」があり、普通は滅多に中には入れないの
 だが、師の神父に連れて行ってもらったので何とか入り込めた。
 丁度京都大学の先生であり、ノーベル物理学賞を受賞されていた湯川秀樹博士も
 いらしていて、かの独特の直線美が美しい離宮の中で印象深く見学させていただいた
 ことを感動的に覚えている。今から60年ほど前のことである。

 桂離宮の家屋は縦横共に直線的だが、決して対称性を重視しておらず、また比例配分
 的な造形意識も感じられない。むしろ非対称的直線の造形で不均衡でもあり、
 それでいて不条理な調和がとれている。

 スペインの5-8世紀(711年以降イスラム族にイベリア半島の大半が統治された)は、
 西ゴート族によるゲルマン王朝支配が続いたが、その前の時代はプレロマネスク美術
 (ビシゴド美術)の時代であった。この聖堂建築の外観はとくに「直線志向」が強い。
 この直線志向は、グレコ・ローマ時代の影響を色濃く受けたスペインのビシゴド聖堂
 建築の最大の特徴である。
 
 云うまでもなく直線は上下、縦横を分離する線であり、天上と地など凡てを分ける
 境界を設定し、情緒に対して区切りを付ける知性の線であるとともに、精神的には
 均衡をもたらす条理の線でもある。またギリシャの神殿は、エーゲ海の水平線と
 同調して、豊かな情緒性が感じられる。

 スペインのロマネスク美術は、他の美術様式とともにローマ美術やビシゴド美術の
 直線の美も引き継いでいるのは至極当然である。そして、この直線が鋭角的に
 折れ曲がり、反復し、継続するイスラムの幾何学模様をも組み入れ、更に多様性を
 深める。この多様性そのものが時間を経ると統一性へと止揚する。
 スペイン・ロマネスク美術の統一的形式・様式美の特徴を形成するのは、なんとも
 面白い直線のもつ効用でもある。

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【3】 銀細工扉口「頭骸骨を抱く女」                   理事 香取 慶子
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 AREJ会員の皆様はサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂を訪ねたことがある、
 または何度もという方も多いことでしょう。
 聖ヤコブ(スペイン語名はサンティアゴ)を祀る教会であり、カミーノ・デ・
 サンティアゴの終着地点です。

 聖ヤコブはキリストの十二使徒の一人で、他にも同名の人物がいるので、特に
 大ヤコブと呼ばれています。福音書によれば、彼はキリストの側近としてしばしば
 キリストの奇跡に立会った人です。

 さてもう何年も前のことですが、巡礼路のロマネスク様式の聖堂や修道院を幾つも
 訪ねた後、大聖堂前のオブロイド広場にやっとの思いで到着しました。
 というのは、歩きならともかく、あそこに大聖堂があるとわかっても一方通行
 ばかりで、何回聞いても要領を得ず、最後には地元の人が「自分の車について
 おいで!」と道案内してくれて漸く辿り着いたのでした。

 まず工匠マテオ作の西門「栄光の門」で巨大なキリスト像とその足下で巡礼杖を
 持つ聖ヤコブの座像に迎えられ、身廊、側廊、翼廊と歩き、南扉口に向かいました。

 南入口は11世紀のままの貴重なところで、右手の時計塔は15世紀前後に作られ、
 歴史が積み重なっています。
 ここ「プエルタ・デ・ラス・プラテリヤス(銀細工の扉)」の左側タンパンの
 右端に「頭骸骨を抱く女」の彫り物があるのをご存知でしょうか。

 初めて見た時にこんなところにこんな彫り物があるのが何とも不思議で、一体何の
 意味があるのかとても興味をもちました。哀しみなのか、怒りなのか、その表情を
 読み取ろうとじっと見上げると今度は色気をも感じさせる女に、聖書的な図像とは
 程遠いものを感じました。通称、「不倫の女」と言われています。

 後日、「Amigos del Románico」(ロマネスク友の会)が年二回発行する
 “ROMÁNICO” のバックナンバーを取り寄せたところ、これに関する論文を見つけ、
 すでに勝峰昭理事長が翻訳完了しています。

 この論文の著者 Profesor Francisco Javier Ocaña Eiroaは、昨年7月発刊の
 “ROMÁNICO” でAREJ設立の記事を見て、スペインから遠い東の地でロマネスク・
 フアンたちが一つの組織を発足したことを喜び、定期的にロマネスクの写真を送って
 下さり、HPのフォト・ギャラリーで皆さんにも広くご覧いただいています。

 今回この論文の記事をAREJ会員の皆様にご紹介したいと連絡したところ、快くご了解
 いただきました。

 <この主題「不倫の女」について最初に書かれたものは、12世紀中葉のCalixtino
 写本である。“忘却してはならぬこと、それは「キリストの誘惑」とともに、自分の
 夫に斬りとられた愛人の腐った頭骸骨を両手の間にもつ一人の女のことである。”>

 次回の講座「彫刻」では、オカニャ先生から送っていただいた写真とともに、
 この論文からアルフォンソⅨ時代の吟遊詩人の詩もご紹介する予定です。
 乞うご期待!

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【4】 キリスト教美術を学ぶために                    理事 香取 慶子
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 十数年前のこと、ヨーロッパを旅する前に柳澤保雄著『ヨーロッパ美術を読む旅』の
 旧約聖書編と新約聖書編を読んで、聖書のにわか勉強をしました。著者は
 「キリスト教徒ではない私がキリスト教の本を書く。それはヨーロッパへの旅には、
 キリスト教の知識が絶対に必要だからです。(中略)旅する人のために役立つ本として
 キリスト教のことを書いてみようと思いたったのです。」と著書の中で述べています。

 また、新井智は『聖書を読むために』(筑摩書房、1974年)で「有名な聖書の話を
 知らないと、西欧の文学・美術・音楽等を鑑賞するのにも手も足も出ない。
 教養としても、聖書の理解は絶対必要なことと言える。」と述べています。

 私は信者でないばかりか、全くキリスト教について知らず、見たものについて一つ一つ
 確認していくという時間のかかる学びが始まりました。聖書を読むだけではわからない
 ことも多く、解釈のしかたにも迷いました。一歩進めて、神学を少しでも知りたい
 学びたいと思っていた時に、「東京キリスト教神学研究所」に出会いました。

 代表の八木雄二先生(著書『神を哲学した中世:ヨーロッパ精神の源流』ほか)は
 哲学者(西欧中世が専門)でクリスチャンではありません。顧問の坂口昻吉先生
 (慶應義塾大学名誉教授、著書『聖ベネディクトゥス』ほか、訳書多数)は
 西洋中世教会史専攻、多くの神学者を指導されて来たとのこと。中川晴久幹事
 (牧師、AREJ会員)およびカトリック信者の方々、中世聖歌ご専門の杉本ゆり先生など
 多彩な顔ぶれの中、末席で私も昨年の5月から月一回勉強させていただいています。
 新しいことを知る喜び、また知識と知識がつながる快さを毎回感じています。
 ご興味のある方は是非WEBをご覧下さい。

 次回は4月16日(水)18:30〜20:30、研究所所長八木先生の「三位一体論の神学」
 カトリック世田谷教会・かまぼこ兵舎(下北沢)参加費500円です。
 参加希望者は予約が必要です。香取までご連絡ください。

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 会員の皆様に向けて、配信しております。

  AREJ mail magazine No.7
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  □発行日   : 2014年3月31日
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  □理事長ブログ: http://blogs.yahoo.co.jp/elromanicoes

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